特集
2020/12/25
妊娠をきっかけに退職を考えているけれど、いつ、誰に報告をすればいいのか分からない…。妊娠・出産を迎える女性にとって「退職をどう切り出すべきか?」は、大きな悩みの種かもしれませんね。そのほかにも「退職を理由に失業保険はもらえる?」「住民税や健康保険などの手続きは?」など、お金にまつわる疑問や悩みを抱える方もたくさんいらっしゃるはずです。そこで今回は、お金の専門家である「FP相談室」の大森英則さんに、妊婦さんが退職前に確認しておきたいことについて詳しくお聞きしました。
保険・資産運用のスペシャリスト
大森 英則
会社への妊娠・退職の報告は、なんとなく切り出しにくいものですが、妊娠がわかったらなるべく早いタイミングでしましょう。理由は、妊娠初期は体調がすぐれず、突然会社を休まなくてはならないことも多いため、妊娠を伏せているとかえって職場に迷惑をかけることがあるからです。また、この時期に仕事を無理し過ぎると、ママ自身や赤ちゃんの健康に影響が出ることもありますので、後悔しないためにも早めの報告をおすすめします。
会社での報告先は、直属の上司と人事部門が一般的です。同僚への報告は、上司と相談してタイミングを決定しましょう。早めに報告すると上司の理解が得られやすいだけでなく、健診休暇や時差通勤、時間外労働の制限などの社内制度も利用できるようになります。また、立ち仕事や重労働など、妊婦さんにとって過酷な職場にいる場合、身体への負担が軽い業務へ変更してもらう必要もあるでしょう。
なお、妊娠を理由に早期退職を迫るなど、不利益な扱いは法律で禁止されています。職場の上司や同僚からの妊娠を理由とするハラスメント(いわゆるマタハラ)についても、事業主による防止措置が義務付けられています。
妊娠を機に退職する場合、気になるのはもらえるお金です。退職後は収入が減るため、出産手当金や失業保険などを事前に把握して出産・育児の支出に備えましょう。
退職すると、会社からは退職金が支給されます。支給額や支給条件は、会社の退職金規定に基づき、勤続年数や給与などに応じて算出されます。退職時に会社から退職金がどのくらい支給されるか、あらかじめ確認しておきましょう。
また、退職に関係なく、出産すると分娩費用として出産育児一時金が支給されます。金額は子供1人あたり42万円(産科医療保障制度未加入の医療機関で出産する場合は40万4000円)。支給対象は妊娠4ヶ月以上の分娩で、死産や流産、早産も含みます。
妊娠・出産後も働き続けるママを前提とした出産手当金は、出産前に退職する場合も受け取れる場合があります。退職日までに継続1年以上被保険者期間があり、退職日が出産手当金の支給期間中(産前42日から産後56日)であって、退職日当日に出勤していない場合は、退職後も出産手当金を受給できます。支給額は休職1日につき標準報酬日額の3分の2相当額で、申請先は会社の健康保険組合になります。
なお、失業保険は、妊娠や出産を機に退職を選択する場合には支給されません。同じく育児休業給付金についても、育休後の職場復帰を前提としていますので、妊娠・出産を機に退職する場合は受給できません。
退職時に最初に手続きが必要となるのは、健康保険(介護保険も含む)と年金です。これまで会社任せにしてきた方がほとんどだと思いますが、退職時の状況に応じて、どのような手続きをすればいいのかを自分自身で把握し、適切な選択肢を取ることがとても重要です。
健康保険については、会社の健康保険を任意継続するか、扶養家族として配偶者の健康保険に加入するかのどちらかが一般的です。
配偶者が会社員でない場合は、各自治体が運営する国民健康保険に加入することになります。前年の所得などに応じて収める金額が変わるため、それぞれの保険料と要件を事前に確認しておきましょう。なお、国民健康保険に切り替える場合は退職後14日以内、任意継続の場合は退職後20日以内に手続きを行う必要があります。
年金は、会社員である配偶者の被扶養者となる場合は、配偶者の会社を通じて手続きします。第3号被保険者となれば、配偶者が加入している厚生年金や共済組合が一括して負担しますので、保険料を個別に納める必要はありません。それ以外の場合は、自治体で国民年金の加入手続きを行います。
国民健康保険に加入する場合は国民年金に加入するのが一般的です。自治体に保険料や必要書類について事前に確認のうえ、健康保険と同時に手続きを済ませてしまいましょう。
もうひとつ、退職したらやっておきたい手続きに確定申告があります。中途退職で年末調整を受けていない場合は、確定申告をすることで納め過ぎた所得税が戻ってきます。
退職金については通常、確定申告は不要ですが、「退職所得の需給に関する申告書」を会社に提出していない場合は、所得税を多く支払っていますので、退職金についても申告しましょう。申告期間は翌年の2月16日~3月15日で、申告先は所轄の税務署です。
また、忘れてはならないのが住民税です。住民税は前年(1月~12月)の所得に応じて課税されますので、退職した翌年は収入がないにもかかわらず、会社員時代と同額の住民税を請求され、大きな負担となります。退職時に特段の手続きを行わなくても、翌年には自治体から納付通知書が送付されますので、期限までに指定の払込用紙などで納付します。
妊娠による体調の変化や健診など不安が大きいなかで、煩雑な手続きをもれなくこなし、円満退社するのはなかなか大変です。会社への報告や自治体への確認は早めに行うことで、体調や環境の急激な変化の際にも慌てずにすむでしょう。
※本情報は2020年12月現在の情報です。