特集
2021/07/22
「妊娠・出産は、病気ではないので健康保険が適用されない」とよく言われますが、出産時に「吸引分娩」を行った場合はどうなのでしょうか。ここでは、吸引分娩が健康保険の適用かどうか、民間の医療保険の支払い対象となるのかどうかについて、ファイナンシャルプランナーの大森英則さんに詳しくお聞きしました。
保険・資産運用のスペシャリスト
大森 英則
吸引分娩が健康保険の適用かどうか、また民間の医療保険の給付金の支払い対象となるかどうかは、どちらも「医師の診断」が一番のポイントになります。医師が正常分娩の範囲内であると判断するかどうかで、保険の対象となるのか、それとも対象外となるのか決まるからです。
妊娠・出産にかかる費用は、一般的に健康保険の適用外となっています。そのため、分娩について特に問題がないケースでは、出産費用は全額自己負担となります。
一方、分娩時に何らかの問題があり、吸引分娩・鉗子分娩・帝王切開が必要となる異常分娩と判断される場合は、健康保険が適用されます。また、民間の医療保険においても、異常分娩が保障の対象となっている場合には、基本的に給付金の支払い対象となります。
要するに、「正常分娩」ではなく「異常分娩」に該当するがどうかが判断の基準になるというわけです。
そもそも健康保険とは、病気やケガの際に、安心して医療を受けられるようにするための制度です。妊娠・出産は、病気やケガではないため、正常分娩の際は健康保険が適用されることはありません。しかし、出産時に何らかのトラブルがあり、医療行為が必要となる場合(=異常分娩)には健康保険が適用されます。
吸引分娩は、その多くが医療行為を必要とする異常分娩に該当します。赤ちゃんまたは妊婦さんを守るための医療行為にあたると判断され、健康保険が適用されることで、吸引分娩、および吸引分娩のために行った会陰切開や縫合術などの自己負担額が3割となるわけです。
ただ、吸引分娩のすべてに健康保険が適用されるわけではありません。吸引分娩の多くは異常分娩の際に行われますが、医師の判断により、正常分娩の範囲内で行われることもあるからです。そういった場合は健康保険の適用はなく、吸引分娩にかかる医療費は全額自己負担となりますので注意が必要です。
民間の医療保険の場合には、異常分娩と判断されれば、給付金の支払い対象となることが多いです。保険契約において妊娠・出産が支払い対象となっている場合、異常分娩と診断されると、契約内容に応じた給付金を受け取ることができます。ただ、こちらも医師が正常分娩の範囲と判断した場合には、支払いの対象とはなりませんので注意しましょう。
受取金額は保険契約によってさまざまですが、入院日数に応じた入院給付金や、吸引分娩にかかる手術の手術給付金などを受け取ることができます。
なお、吸引分娩での医療保険の給付には注意点があります。健康保険の適用があっても、民間の医療保険では給付金が支払われない場合もあるため、契約している保険内容をしっかりと確認してください。
吸引分娩で医療保険の給付金を受け取る際には、「約款」「加入時期」「特定部位不担保の条件」を確認する必要があります。保険は、商品や契約によって保障の範囲や給付される内容が違います。保険の内容は約款や契約書に記載されているため、よく読んでおきましょう。
出産に関する支払いの場合は、保険の加入時期に注意が必要です。妊娠・出産はリスクが高いため、妊娠がわかってからの保険への加入は難しい傾向があるからです。
保険に加入できたとしても、給付金が支払われるかは別の問題です。今回の妊娠中に加入した保険は、今回の妊娠・出産に関する疾病、手術などは保障の対象外となり、給付金が下りない場合もあります。※一部の会社を除きます。
また、特定部位(疾病)不担保といって、特定の部位(子宮など)や疾病(異常分娩など)を保障の対象から一定期間除く、条件付きの加入となることもあります。過去に帝王切開などを経験された方も一定期間内の加入に関しては、不担保になる事があります。妊娠・出産に関係する特定部位不担保の条件付きの保険契約では、吸引分娩による手術や入院は給付金の支払い対象外です。
また、保険金の支払い期限にも注意しましょう。保険金の支払い請求には期限があります。法定の時効消滅は3年です。そのため、保険商品の多くは「3年間請求がない場合には保険請求の権利が消滅する」と約款で定めています。
しかし、万が一3年を過ぎてしまった場合にも、必要書類(保険会社指定の診断書、入院の際の領収書のコピーなど)を揃えれば請求できる可能性もあります。保険が適用されるかもしれないと思ったら、まずは医療保険加入の窓口担当、保険会社のコールセンターに問い合わせてみましょう。