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2018/02/27
「相続なんてお金持ちしか関係ない話でしょ?」。そんな風に考えている人もきっと少なくないでしょう。ところが、相続でのトラブルが発生するケースのおよそ半分が、1000万円以下の遺産を巡って起こると言われています。ごく普通の家庭でも、相続でのトラブルは決して他人事ではないのです。「円満な相続」にするには、どんなことに注意すればいいのでしょうか。そこで今回は、相続を「争族」にしないためのポイントを、相続対策専門士にお聞きしました。
中日教えてナビ
編集部
円満な相続を考える前提として、そもそも法的に誰が相続の対象になるのかご存知でしょうか。相続の対象となるのは、亡くなった方の配偶者とその子どもたち。場合によっては本人のご両親なども対象になります。
では、養子や連れ子などはどうなるでしょうか。法的な養子縁組をしていれば、孫を相続の対象にすることも可能です。税法上、被相続人に実の子どもがいる場合は1人まで、実の子どもがいない場合には2人まで、法定相続人の数に含めることができ、その分、相続税の基礎控除額が増えることになります。
ちなみに相続税の基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。遺産額がこの金額を下回る場合は、相続税がかかることはありません。
子どもや孫に少しでも資産を残したいと、孫と養子縁組をする人もいます。ただ、物事の分別がつかないような年齢の孫を、節税のために養子縁組するのは、あまりお勧めできることではない気がします。
相続で揉めないようにするために大切なことは、親の気持ちが子どもに伝わり、子どもの気持ちが親に伝わっていること。お互いの理解を深めていくことがポイントです。
残された家族が幸せになるためには、みんなが平等だと感じられることが大事です。生きているうちに、ある程度の方向性を決めておく必要があり、これを怠ると子どもたちが揉めることにも繋がりかねません。
仮に平均寿命を超えた90歳で亡くなったとすると、その子どもたちはすでに70歳近い年齢の高齢者になっている可能性が高いです。だからこそ亡くなる直前ではなく、できるだけ早い段階に話し合い、遺産をどのように相続するのかを決めておくべきです。できれば、まだ体の自由が効く健康寿命までを目安に、残りの人生をどうしたいか、子どもたちに何を残したいかを考えてください。
ただ、子どもからは相続の話し合いをするのが憚られるケースも多いです。そんな時は、相続の専門家を利用するなど、第三者を介して相談するのも一つの案です。専門家は「山岳ガイド」のようなものです。何も知らずに一人で山を登るより、山岳ガイドのサポートを受けた方が登山もスムーズに進むはず。相続もプロのアドバイスを受けるのが円満に歩を進める近道です。
円満な相続をするために考えられる方法の一つが、遺言を残すことです。最近では、エンディングノートを使って生前に伝えたい希望を書き留めておいたり、公証人役場で作成する公正証書遺言をきちんと残す人も増えているようです。
遺言の内容は亡くなった後から効力を発揮します。きちんと話し合いの場を持たないまま遺言を作成した場合、みんなが納得できる内容であれば問題ありませんが、そうではない時には、残された遺族が揉める火種となってしまうことも考えられます。やはり元気なうちにきちんと話し合っておくのがベターです。
問題となりがちな例として、長男の嫁が義父母の介護をしていた場合です。この場合、実の子どもではない嫁には、法律上、遺産を相続する権利はありません(今後、民法改正により介護に貢献した親族も新たに金銭を請求できる制度を設けようという内容も盛り込まれる可能性もあります)。それまで大変な苦労をして介護してきたにも関わらず、遺産を相続することができず、実の子どもたちが財産を相続することになるわけです。第三者からすると明らかに不平等であり、こうした場合には円満な相続とはならず、争いごとに発展するケースが多いので、やはり前もって話し合いをしておくと良いですね。
では、残念ながら相続財産を巡って揉め事が起きた場合には、一体どうなるのでしょうか。当事者同士の話し合いで解決できなければ、最悪の場合、調停や裁判に発展することもあります。
相続で揉めるのは大金持ちだけだとお考えの方も多いと思いますが、実は、揉めごとが発生するケースの遺産額は75%が5000万円以下で、50%が1000万円以下なのです。相続で争いが起こるのは、むしろごく一般的な家庭です。換金しやすい形で多額の財産が残っていれば、遺産を分割する際に困ることはありません。逆に、残された遺産が家のみといったケースでは、すぐに換金するのは難しく、どのように分割するのかを巡って揉め事に発展しやすいのです。
父親が亡くなって家が残った場合、子どもたちは相続を放棄し、母親がその家に住み続けるのが一般的です。ただ、母親が亡くなった時に、その家をどうするのか。また、残された母親が認知症になった場合、家を売却しようにも認知症の母では判断できずに売れ残り、その後の売却と遺産の分配に困るケースもあります。
このように、法律に則った分配の仕方では、必ずしも平等だとは言えないケースも多い相続。無用な争いを防ぐため、すぐにでもきちんと話し合いの場を持っておくことが何より大切です。