特集
2018/07/30
万が一のことがあった時のために「遺言書」を残す人が増えています。遺言書とは、所有する財産などをどのように処分するのかを書面に書き残し、意思表示しておくためのもの。遺産相続のトラブルを防ぎたいという思いで書き残す人が多いようですが、実は、要件を満たしていない場合、遺言書が無効になったり、かえってトラブルの火種になったりすることも考えられます。そこで今回は、遺言書を作成する際の注意点や、トラブルを未然に防ぐ方法について、司法書士法人ながしま事務所の長島潤さんにお聞きしました。
中日教えてナビ
編集部
最近では「終活」という言葉がブームになり、遺言書を書く人が増えています。なかには自分で調べて遺言書を書く人もいるようですが、この場合には注意が必要です。遺言書には、必ず押さえなければいけない要件などがあります。ネットで調べて自分で書いた遺言書は、こうした要件を満たしておらず、最悪の場合、無効になってしまうことも考えられるからです。
注意すべきポイントの一つが、「第三者が特定できない言葉は使えない」ということです。例えば、「自宅を長男に譲る」と書いた場合、「自宅」とはどこまでを指すのかが問題になることがあるので、登記簿に書いてある通りに書きます。遺言書は「誰がどう見ても分かる」ものではなければならないのです。
また、ネットの情報などから自分で遺言書を書くことができても、自筆の遺言書の場合には、遺言書の管理人や相続人が裁判所で検認の手続きを取る必要があります。この手続きの際に亡くなった人の戸籍を付けることになります。
この検認の際、相続を受ける人以外にも手続きの連絡がいくことになります。血縁関係にあってもずっと会っておらず関係性が薄い人にも知らせることになり、相続を巡る争いのきっかけになりかねないので十分注意が必要です。
遺言書に関するトラブルを起こさないためには、公正役場で遺言書を作成する「公正証書遺言」を残しておくのがお勧めです。
公正証書遺言には、裁判所がお墨付きを与えたのと同じ効果があり、検認の必要はありません。遺言者が亡くなった後、遺言書と、亡くなった人の戸籍を持っていけば、銀行預金の解約もできますし、不動産の名義変更も可能です。相続を受ける人以外の人に知られることなく進められる点もメリットでしょう。
公正証書遺言を作成するための費用は、資産の額によって変わり、3万円~20万円ほどになります。証人が2人必要で、家族は認められません。司法書士が証人となる場合もあります。
残された家族が揉めないようにするのが遺言書の主な目的です。自分で遺言書を作った場合、揉め事の種になりかねませんから、多少費用がかかっても公正証書遺言を作成しておくのが賢明でしょう。
遺言書の内容については、弁護士や司法書士に相談すれば、本人の意向に沿った内容で文案を作成してくれます。
遺言書を作成するときに一番大事なのは、「何をしたいのか」をきちんと整理して考えること。残された家族にどのようにして欲しいのか、まずはじっくり考えることが重要です。
公正役場で遺言書を作成してもらう場合には、戸籍(遺言する人・受け取る人)、遺言者の印鑑証明、実印を持参する必要があります。また、資産がどれだけあるのかが分かるものも必要です。ちなみに、最近は公正証書遺言を作成する人がとても増えており、公証人の先生の予約も取りにくい状況になっています。遺言書の作成を考えている人は、早めに行動を起こした方が良いでしょう。
たとえ遺言書を作成したとしても、揉め事が全く起こらないわけではありません。本人に意思表示ができるかどうか、資産を誰にあげたいか、認知症が始まっているかどうかなどによって、のちにトラブルが発生することもあります。
「資産は自宅だけだから」と、遺言書を作成しない人がいますが、できれば資産がご自宅だけでも遺言書を作っておいた方がよいでしょう。残された兄弟の仲が良ければいいですが、亡くなってから兄弟とその配偶者の意見が変わり、揉め事になることも考えられるからです。例えば、両親の所有する土地に長男が家を建てていた場合などには、土地の所有権で兄弟が揉めることもあります。土地の生前贈与をしておいたり、遺言をきちんと作成しておくべきです。
生前贈与や遺言書に関することは、親となかなか話しづらい内容かもしれません。ただ、普段から親子で何でも相談できる関係を作るように努め、早い段階からきちんと話をしておくことが大事です。