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認知症になると遺言書は有効?無効? 認知症の家族がいる場合に知っておくべき<相続の基礎知識>

2018/08/20

内閣府の資料によれば日本国内の認知症高齢者数は462万人(2012年時点)。これは65歳以上の高齢者の約7分の1にあたります。高齢化により認知症患者は今後も増え続け、2025年には約5人に1人になるという推計もあります。認知症を抱えた家族を支えることは、今や決して特別なことではないのです。そして、家族が認知症を患うと問題になりがちなのが「相続」です。認知症になった場合、遺言書は有効なのか。認知症になる前にしておくべきことは何か。そんな認知症にまつわる相続の疑問について、「家族信託相談センター愛知」の戸軽進さんにお聞きしました。

戸軽 進

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戸軽 進

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被相続人が軽度の認知症の場合でも、契約行為や遺言書は全て無効になる?

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有効な遺言書を残すためには、「遺言能力」を持ったものが作成する必要があります。「遺言能力」とは、自らが行う遺言の内容を理解し、その遺言の結果、どのような効力が生じるのかが分かる能力のこと。これを持ち合わせているかどうかが問われます。

とはいえ、人によって症状は異なりますし、時間とともに変化するものです。そのため、認知症だからといって、必ずしも遺言書が残せないわけではありません。ただし、相続発生時に相続人の間で被相続人の遺言能力の有無を争った場合、裁判所などの力を借りなければ解決できない事態に陥ることもあります。

契約行為については一概に無効になるとは限りません。高額な物品を反復継続して売りつけるような、公序良俗に反する契約は無効になるでしょうが、売買の相手側が認知症なのかどうかを見た目で判断できないことも考えられ、こうした場合には有効になることもありえます。すべての契約を無効にさせるのであれば、法定後見人制度などを利用して無条件で解約させることも可能です。

認知症が進行すると銀行口座が凍結されることも。生前贈与などで事前に対応を。

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認知症になるということは、その人が意思判断能力を失うということです。意思判断能力を失うと、それまで普通にしてきたことができなくなることが多いです。

例えば、お金の問題です。認知症の程度が進むと、銀行口座や保有する株式などが凍結されます。家族が認知症になると、これまでの生活に加えて介護費用などが発生しますが、もし認知症の患者さんの口座が凍結されてしまうと、家族が代わりに支払う形で支えるしかなくなります。支える側に余裕があれば問題ないかもしれませんが、介護の時間を作るために介護離職を余儀なくされるような状況であれば、途端に金銭的な困窮状態に陥ることもあり得ます。

患者本人がせっかく老後の資金として用意していたお金を使うことができなければ、元も子もありません。家族信託や生前贈与などを利用し、資産を有効に使ってもらえるように対策をしておくことは、本人と家族の幸せな老後にとってとても重要なことです。

有効な遺言書を遺したいなら公正証書遺言を早めに検討すべき。

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被相続人が遺言書を遺した場合、それが有効なのか、無効なのかは、遺言の種類によって異なってきます。また、一部が有効で、一部が無効といったケースもあり、一概には判断できません。

ただ、すべての内容を本人が書いた自筆証書遺言の場合、内容が複雑になればなるほど、様式を含めて有効な遺言書に仕上げるのは難しくなります。それよりも、公証役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言を選ぶ方がハードルが低く、多少費用はかかりますがこちらを選択する方が良いでしょう。

ただ、公正証書遺言を遺せば絶対にトラブルが起きないかと言うと、決してそうではありません。家族間の相続争いをさせないような遺言書を遺したいのであれば、遺言者が健常な時に、できるだけ早いタイミングで作成するのが賢明です。

2020年には自筆証書遺言の制度が変更され、従来よりも使い勝手が良くなる予定。

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前述した通り、遺言書は大きく分けて「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つがあります。

自筆証書遺言は、様式が細かく決められているので、それに従う必要があります。また、相続発生後、勝手に開封することはできませんので、取り扱いにも注意が必要です。一方、公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらいます。間違いが起こることは少ないですが、その分、作成費用が必要になります。本人が直接、公証役場を訪問して作成してもらっても良いですが、遺言書に記載する内容を事前にまとめておいた方がスムーズですから、あらかじめ専門家に相談してサポートを受けるのが良いでしょう。

少し先の話になりますが、2020年には民法の改正が予定されており、遺言書の制度も大きく変更される予定です。特に、自筆証書遺言は、ワープロ書きが一部認められ、遺言書を法務局で保管してもらう制度も導入されるようです。これまでの自筆証書遺言よりも使い勝手が良くなり、費用負担もそれほど多くは生じないようです。ただ、いずれにせよ、無用なトラブルを避けるためには、専門家のアドバイスを受けるのが望ましいと思います。

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