特集
2019/03/15
2017年、東名高速の路上で停車させられた夫婦2人が、後続のトラックにはねられて死亡するという痛ましい事件が発生。それ以来、社会問題として大きくクローズアップされるようになった「あおり運転」。いまだ全国各地で数多くの事件・事故が発生しており、私たちもいつトラブルに巻き込まれるか分かりません。そこで今回は、そもそも「あおり運転」とはどんなものなのか、トラブルを回避するためにはどんな準備・心構えが必要なのかについて、向山法律事務所の向山富雄先生にお聞きしました。
あなたのための庶民派弁護士
向山 富雄
そもそもあおり運転がどんな行為なのかを明確に規定した法律はありません。感情的になった運転者が、通常の運転操作では考えられないような危険な運転を繰り返し行うことが「あおり運転」だとされています。
また、あおり運転自体を犯罪に認定する法律も存在していません。そのため、あおり行為を行った運転者は、それぞれの事例に応じて、自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪、刑法の殺人罪や暴行罪、道路交通法などの諸々の法令によって処罰されることになります。
ちなみに、酒気帯び運転においては、運転者の飲酒運転を助長したとみなされる場合、同乗者も処罰の対象となります。では、あおり運転の車に同乗していた人は罰されるのでしょうか。これについては、今のところ罰則規定はありません。しかし、運転者にあおり運転をそそのかすような行為を行った場合には、教唆や幇助(ほうじょ)の罪に問われることになります。
では、あなたは、あおり運転の被害にあった時、どのように対処すれば良いでしょうか。あおり運転を行ってきた相手が車から降りて向かってきた場合には、決して車のドアを開けないで下さい。ドアをロックし、相手にしないことが大事です。安易にドアを開けて対応しようとすれば、相手から暴力を振るわれるかもしれません。また、自分の気持ちも興奮しているため、逆に感情の抑えが効かなくなって暴力を振るってしまうかもしれません。何よりも「向かい合わないこと」が一番です。
あおり運転の被害に遭った時、証拠として非常に有効なのがドライブレコーダーの映像です。これは、あおり運転に限った話ではなく、事故を起こした時にもドライブレコーダーの映像が証拠としてとても役立ちますので、すぐにでも付けておくことをお勧めします。ドライブレコーダーは、前方・後方それぞれに装着しておくのがベストですが、それが難しければ、とりあえず前方だけでも付けておくと安心です。また、あおり運転の被害に遭いそうな時は、同乗者にお願いしてスマホなどで動画を撮影しておくのも良いでしょう。
あおり運転や事故が発生した時、ドライブレコーダーの映像はとても役立ちますが、撮影した動画の取り扱いには気を付けましょう。ドライブレコーダーによる撮影は、あくまで自分の身を守り、走行を保全するために行っていることであり、本来の目的を逸脱した使い方をするのはNGだと考えておくのが良さそうです。
例えば、面白い映像が撮影できたからといって、SNSにアップして動画を拡散したとします。この場合、意図しない第三者が画像に映り込んでおり、名誉毀損やプライバシーの侵害、肖像権の侵害などで訴えられるケースも考えられます。事件に巻き込まれないようにドライブレコーダーを装着したにも関わらず、その映像が原因で大きなトラブルに発展したのでは本末転倒です。くれぐれも本来の目的以外の使用は控えるようにしてください。
なかには、自分はあおっているつもりはないのに、「あおり運転だ!」と訴えられたらどうしようとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。渋滞などが原因で、故意ではないにも関わらず、結果的に車間距離を詰めて走ってしまった…なんて経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
こうしたケースは、あおり運転には該当しません。あおり運転は、あくまで運転者が感情的になり、その不満を満たすために身勝手な運転を行うことです。そういうつもりはなかったということをきちんと主張すれば問題ありません。
また、あおり運転を受けると、どうしても運転に焦りが生じてしまいがちです。これにより、他の車に追突するなど、第三者に被害を及ぼしてしまうこともあるかもしれません。この時、あおり運転を行った運転者は、危険運転致死傷罪が問われることになります。ただ、あおられた側も、追い越し車線から走行車線に移る、高速であればPAや路側帯に避けるなど、危険を回避するための行動を十分に取ったかどうかが問われることがあります。
車の運転する人であれば、いつ巻き込まれてもおかしくない「あおり運転」のトラブル。ドライブレコーダーを装着するなど、事前の備えをきちんと行った上で、万が一の時にも冷静に落ち着いて対処して欲しいと思います。