特集
2020/10/14
最近では、中古のマンションや戸建てをリノベーションして暮らす人が増えています。普段の暮らしの中でも耳にすることが多くなった「リノベーション」ですが、「リフォームと何が違うのか?」など、その意味を正しく理解していない方もきっと少なくないはずです。そこで今回は、年間80棟程度、これまで200棟ほどの古民家リノベーションを手掛けてきた専門家、株式会社新和建設の清水誠二さんに「そもそもリノベーションとはどんなものか?」「リノベーションのメリットや注意点は?」などについて詳しくお聞きしました。
古民家リノベーションのプロ
清水 誠二
リノベーションは、「リフォーム」と同じようなものだと捉えている人も多いと思いますが、実はまったく考え方が異なるものです。
リフォームは、間取りを変えずに仕上げをきれいにし、見た目を変えることです。一方で、リノベーションは、建物を一旦骨組みの状態にして、そこから作り込んできれいな空間を生み出します。リノベーションをすれば、従来の間取りを大きく変え、生活スタイルを一変させることできる、というわけです。
リノベーションを行う業者の技術力によって差はありますが、構造的に必要な部分を残しつつ、かなり自由の高い間取り変更が可能です。そのほかにも、断熱性能や耐震性の向上、光の差し込み具合の調整など、機能面の変更ができるのもリノベーションの大きな特徴です。
リノベーションのメリットは、住む人が描く理想の暮らしにあわせて、「美」「性能」「機能性」を変えられる点にあります。「美」とは、古いものを活かしながら新旧を融合させること。「性能」は断熱や耐震、そして「機能性」は、間取りや使い勝手、収納などです。これらを新たなライフスタイルに応じてカスタマイズできるのが一番の利点です。
築年数が経過した古民家の場合、リノベーションをするとなると大がかりになるケースが多いです。建て替えにするのかどうか悩む方もいると思いますが、それでもリノベーションを選ぶ人は、建物に対する思い入れを重視していらっしゃることが多いです。古民家には、現在では手に入らないような古材が使われているケースもあります。こうした材を活かし、継承することに価値を感じる人たちがリノベーションを選んでいます。
リノベーションに適しているのは、使っている材に価値がある家です。逆に、高度経済成長期に建てられた家は意外ともろく、建て替えをした方がいいと思います。とはいえ、基本的にはどんな家でもリノベーションが可能です。最終的には、お客様がどれだけ思い入れを持っているかどうかが判断基準になるでしょう。
古民家に使われている無垢材は、加工された新建材には出せない味わいがあります。経年劣化により、新築では決して出すことができない独特の雰囲気を醸し出してくれます。
ただ、古民家をリノベーションする場合には、新築注文住宅の8掛けくらいの費用はかかると考えてください。リノベーションは単純に「費用を安くしたい」という考えで選ぶものではありません。フルリノベーションであれば、坪60万円以上はかかるのが相場です。しかも、新築とは違って1軒ずつ状況が違いますから、かかる費用も全く異なってきます。
実際には「費用を安くしたいから」と相談に訪れるお客様も多いですが、こうした方には、部分的にリノベーションを施し、あとはリフォームで済ませるといったご提案をしています。お客様の家族構成が間取りに合う場合には、LDKと水回りをリノベーションする程度で済ませ、費用を安く抑えられることもあります。
プランを立てる時には、お客様の要望を聞きつつ、どうしてリノベーションを選んだのか、住まいづくりの動機やきっかけ、趣味やライフスタイルなどをヒアリングし、費用よりも価値を理解してもらい、そのうえで費用が見合うのかを検討してもらうようにしています。
古民家リノベーションをお願いする業者を選定する際には、目に見える部分も重要ですが、見えないところ、例えば床の湿気対策や断熱材はどんなものを使っているのか、耐震はどうなのか、などをしっかり吟味することが大事です。
また、「自分たちはどういう暮らしぶりをしたいのか」を考え、住まいづくりのテーマ、もしくはコンセプトを立てることも重要です。テーマやコンセプトが具体的であればあるほど、施主と業者の共通認識が生まれるので、良いものができるはずです。ただ、逆にいえば、漠然と「こうしたい」と考えている施主の思いをヒアリングし、きちんと引き出して形にできるかどうかも業者の腕だと思います。
家のテーマを考えることが、自分らしい暮らしを手に入れる一番のポイントです。家づくりはいくつも決めることがありますが、コンセプトがきちんと固まっていれば調和が取れやすく、満足が高くて後悔しない家づくりができると思います。