2022/05/02 00:00
この案件は、「家族の生きる力を引き出したい」というY様の娘さんからの相談でスタートしました。ご実家は、Y様と高齢のご両親、娘夫婦という三世帯。ご主人のY様は、タンクローリーの運転をしていましたが、清掃作業中の転落事故により脊髄損傷してしまったのです。Y様はそれ以来すっかり気力をなくしてしまい、リハビリにも気持ちが入らない様子。そこで、娘さんは自宅で以前のように生活できるよう、自宅を改修できないかと思ったのです。
まず初めに、Y様のご自宅を訪れ、ご家族から希望をお伺いしました。その後、Y様に会うために病院へ向かったのですが、まだ事故のショックから抜け出せず、将来への不安によって生きる希望さえ持てないように見えました。そこで、建築的な話はまず横に置いて、心を開いてもらえるまでひたすら世間話に徹するようにしたのです。もちろん、並行して現地調査やバリアフリー改修計画も進めていきました。およそ2か月間の時を要しましたがY様は私たちに少しずつ心を許し、そして現状に向き合い、社会復帰に向けて踏み出し始めたのです。
改修計画は、主に三点としました。まず一点目は、Y様の部屋です。ダイニング横の和室があったのですが、ここをY様の部屋にしたのです。車いす用に必要となる、トイレや洗面スペースも部屋の中に設けたことで、部屋の中で生活がある程度送れるようになったのです。自室で日々の生活が賄えることは、プライバシーを保つこととなり、自立した生活への一歩にも繋がりました。
二つ目としては、段差昇降機です。Y様の新しい部屋にある、南側サッシを車いす用の玄関入口として利用できるように、約1メートルある段差を解消できる段差解消機を設けたのです。
最後に、三つ目に、浴室の改修を行いました。元々あった浴室は狭くて車いす利用者には利用しづらかったため、リフト付きのユニットバスに交換したのです。また、寒さを感じにくい仕様にも変更しました。
トータルバリアフリーとは何か
Y様とご家族がまた笑って暮らせる日常を取り戻せたことを一番嬉しく思います。バリアフリーコーディネーターとして、単に家づくりの提案をするだけでなく、そこでご本人やご家族がどのように過ごされ、どのようなサポートができるのかが肝要だと思います。それこそが真のトータルバリアフリーだと言えるでしょう。