2022/10/07 00:00
医療関係者との面談において、障がい者本人も交えて作った基本計画になかなか理解を示してもらえないケースは珍しくありません。医療関係者は医療のプロですが、建築のプロではありません。そこでまず最優先されるのは「安全」であること。「ご家族にとっての快適な暮らしとは何か」というQOLの視点が抜けてしまっていることが往々にしてあります。そんなすれ違いを実感し「心のバリアフリー」という考え方を提唱するきっかけとなった、あるご家族のリフォームエピソードをご紹介します。
すれ違う「医療関係者の正解」と「障がい者・ご家族の希望」
27歳の時に交通事故に遭い、車いす生活を余儀なくされたF様。ご両親に会い、胸の内を聞いてみると、これからの息子さんの生活や事故による補償など不安と疑問がいっぱいのご様子でした。その後、息子さんが入院している病院を訪問。歩行はできないもののそれ以外は健常者と同じ生活が送れると予測し、車いすのための大規模改修は必要ないのではと考えていました。しかし、この時すでに医療関係者からは「1階リビングの隣にある和室を息子さんの部屋に変更した上で、水まわりの設備を全て入れ替え広くしたほうがいい」と杓子定規な提案がなされていたのです。
この提案に対しご両親が気掛かりだったのは、奥様が週に2回ほどリビングで開く料理教室です。物音や話し声はどうしても隣に届いてしまいます。生徒さんが来た時にお互いが気を遣うことにならないだろうか、一方で息子さんも、気兼ねなく友人を招き入れることが難しくなるのでは・・・と予想されました。また、水まわり設備の総入れ替えと拡張によって、工事中は仮住まいに引っ越しをせざるを得なくなり、多額の費用が発生します。しかし、息子さんのためには「病院の言う通りするのが最善だ」とこれらの不安を隠していたのです。「医療関係者の正解」と「障がい者・ご家族の希望」の間にはこのようなすれ違いが生まれるのです。
後編に続きます。