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杉田 直樹

ヴァイオリン売買のコンサルタント

杉田 直樹 すぎた なおき

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事例・コラム

2018/03/12 16:39

偉大なるヴァイオリン製作家の逝去を悼む

先月27日、ヴァイオリン業界に衝撃的なニュースが舞い込んできました。世界の誰もが認める現代最高のヴァイオリン製作家、マエストロGio. Batta. Morassi が、83歳でその生涯を閉じられました。年齢を重ねてもアクティブに動く様を見てきた周囲にとって、彼の死などという非現実は考えることもなく、その訪れはもっと先だと思っていたことでしょう。この現実を受け入れるのには相応の時間がかかるでしょう。
彼の製作してきた楽器には、ストラディヴァリを彷彿とさせる洗練されたクレモナスタイルの追求とともに、その中に見る剛健さと、均整の取れた美しさの融合を見ることができます。生涯で1000を超える楽器を製作してきたそのワークマンシップ、自己管理能力は驚くばかりですが、それは楽器製作に対する情熱と愛がなければなし得ぬことです。これだけの質の高い作品をこれほどの数を残してきた製作家はストラディヴァリ以来、歴史上に存在はしないでしょう。
さらに、彼の功績は自らの作品を多く残し、多くの優秀な演奏家に弾かれているだけではありません。衰退後のクレモナの製作界を、今日のように発展させた功績、とりわけ20世紀前中盤の主流であったミラノ派のオルナティ、ガリンベルティなどからそのモデルを学び、ストラディヴァリの多くの作品の解析を実際に行い、その卓越した技と知識を惜しみなく弟子たちに伝承してきたことにあります。現在、クレモナの製作界を支える名匠たちの多くに、そのDNAは引き継がれていると言えます。弟子たちに愛情を注ぎ、誰からも慕われ尊敬されたマエストロ。時にお茶目な部分があったり、沢山のエピソードを皆に残して旅立たれました。
私が最後にお会いしたのは昨年6月、クレモナから離れたところに住まれていたマエストロが工房に顔を出されたタイミングとちょうど重なりました。工房にあった絵画や額をいくつか手に持ち、車に積み込んでいらっしゃるところで、「マエストロ、お手伝いしましょうか?」という問いかけに、「大丈夫、大丈夫、まだ元気なんだから」と笑顔で答えられたことが忘れられません。彼の死は残念で悲しいことですが、その死をもってわかったことは、彼の魂は永遠なんだということです。その作品の中に彼は生き続けているし、その楽器を持つ演奏家によって奏でられる音楽は普遍なのですから…マエストロ、ゆっくりお休みください。