2018/10/01 14:25
1. 日本人が初めて聴いた西洋音楽
8月28日は「バイオリンの日」。これは1880年(明治13年)のこの日、東京・深川の三味線職人・松永定次郎が、国産ヴァイオリンの第一号を完成させた日だということによるそうだ。
16世紀後半、イタリアで花開いたヴァイオリン製作だが、クレモナのストラディヴァリをはじめ、歴史的名匠が今日までたくさん輩出されてきた。では、この西洋文化であるヴァイオリンが我が国に伝わったのはいつのことなのか。
日本人が初めて西洋の音楽に接したのは、1549年のキリスト教伝来の年である。フランシスコ・ザビエルによってキリスト教だけでなく、教会音楽という形で、西洋の音楽文化が日本へ持ち込まれたのである。その時から少数の楽器が持ち込まれた証がイエズス会の報告書に見られる。「天正9年(1581年)、織田信長はクラヴォとヴィオラの演奏を聴いて非常に喜んだ」という記述である。そして4年後、1585年は伊東マンショら天正遣欧少年使節団がローマ教皇に謁見した年である。ヴァリニャーノ神父の発案で、九州の大友、大村、有馬というキリシタン大名の名代として海を渡った彼らは、当然、ミサへの参加を通して西洋音楽、キリスト教音楽や楽器に接しているはずである。ちなみに彼らの帰国は天正18年(1590年)であるが、すでにその3年前に豊臣秀吉によるバテレン追放令が発布され、キリスト教への弾圧が高まりつつある中、天正19年(1591年)、聚楽第にて秀吉の面前にてジョスカン・デ・プレの作品が演奏されている(器楽曲なのかどうかは不明)。
日本のこの時代を、ヴァイオリン製作の歴史と照らし合わせてみると、まさにヴィオールなどの古楽器、またすでに完成しつつあったと考えられるヴィオラやチェロからヴァイオリンが初めて製作されていった時代と重なるという面白味がある。極東の地にあった日本人がヴァイオリンの誕生の歴史の中に身を置いていたのではないかと想像すると、少し嬉しい気がしてならない。