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杉田 直樹

ヴァイオリン売買のコンサルタント

杉田 直樹 すぎた なおき

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事例・コラム

2018/10/01 14:27

日本人とヴァイオリン~その黎明期を探る (その10)

10. おばあちゃんのヴァイオリンの発見

ここで、日本の演奏文化発展を担ってきたヴァイオリニストと、鈴木バイオリンを結びつけた最近のエピソードを紹介したい。
一昨年、ヴァイオリニストでフランス政府芸術文化勲章受章の森悠子さん(1944年大阪府高槻市生まれ)の祖母、川出朝子さん(以降、朝子)が使っていたと思われる鈴木バイオリンが、愛知県の小坂井(現在の豊川市) の川出家家屋解体をする際に発見された。森さんは祖母がバイオリンを弾いていたことは知らなかったそうだが、嫁ぐ前に弾いていたらしいことがわかった。朝子(旧姓・井本)は、現在の蒲郡市三谷の貿易商家に生まれ育つ。生年は不明だが、結婚した国文学者・川出麻須美(森さんの祖父)が明治17年(1884年)生まれであるから、およその推定ができる。私の曽祖母いと(川出麻須美より10歳年長)が同じ三河地方でヴァイオリンを取り入れた音楽を教えていたという地域の時代背景を考えれば、朝子もまた裕福な商家の娘として、お稽古に通いヴァイオリンを奏でていたのであろう。
この楽器は鈴木バイオリンの最初期のラベルを有し、品番はNo.6。M.SUZUKI という文字のほか明治23年(1890年)内国勧業博覧会、26年(1893年)コロンブス世界博、28年(1895年)内国勧業博覧会の受賞メダルのデザインが誇らしく3つ並んでおり、NIHON という記載。楽器の状態はよく、最初期のヴァイオリンでこれほどまでの完品を目にしたのは初めてである。驚いたのは、表板、裏板のエッジの処理の丁寧さである。明らかに手間をかけ時間を有して製作されている。1907年にNo.6は12円という価格が付いており、物価指数などを参考にすると、今の金額で40,000~80,000円ほどということになるのだが、スクロール(渦巻き)の造作の均整のとれた形、彫り込む技術はその価格をはるかに上回ると言わざるを得ない。そして、その外観はマルクノイキルヘンのヴァイオリンのイメージを強く感じるものであり、ドイツで同類楽器が製作されていった時代からほとんど遅れることなく、日本で同様なものが作られていたということはまさに感嘆に値するものである。鈴木バイオリン、鈴木隆社長もその稀少さに驚かれたという。私もまた、谷口工場長へ取材に伺い、この楽器の製作年代についての私の考えをお伝えした。