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不動産相続登記の義務化へ法改正、メリット・デメリットを解説!

2022/08/08

2024年4月から不動産相続登記が義務化されることになりました。現在は、相続登記に関する申請義務がなく、申請期限なども設けられていませんが、2024年4月1日以降は、相続登記が義務化され、相続で不動産取得を知った日から3年以内に登記申請をしなければなりません。そこで今回は、不動産登記業務の専門家として活躍されている神谷佳希さんに、不動産相続登記の義務化の背景や、法改正のメリット・デメリットなどについて詳しくお聞きしました。

神谷 佳希

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神谷 佳希

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相続登記の義務化の背景

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そもそも相続登記が義務化される背景には、近年、全国各地で所有者不明の土地が急増し、社会問題化していることがあります。この問題の解消に向けて国が法改正を進めており、2024年から相続登記が義務化されることになりました。

従来から相続登記がなされない土地はたくさん存在していましたが、大きな転機となったのが、東日本大震災です。東北地方を中心に甚大な被害をもたらし、その復興が急ピッチで進められる中で、作業の妨げになったのが土地の所有権の問題だったのです。自治体が土地の所有権を記載している登記簿を見ても、その土地の所有者が分からない。そのため、復興事業を進めようにも土地の所有者からの承諾を得ることができず、工事を進められないといった事案がいたるところで発生したのです。

以前から公共事業に関わる買収を進めていくうえで、所有者不明の土地が足かせになることはあったわけですが、東日本大震災の後にも全国各地で地震や土砂崩れなどの大きな災害が頻発するなか、復興工事など公共事業の妨げになるケースが増えてきたことを受け、ここにきて法改正に至りました。

現在でも所有者不明の土地は増え続けており、これが今後も増えていくことになれば、公共事業にさらなる悪影響が出ることも予想されます。そこで、その解決策の一つとして相続登記の義務化が決まったわけです。

義務化の改正ポイントは?

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これまで相続登記は義務化されていませんでしたが、その土地に長男や跡取りの人などが引き続き住み、固定資産税さえ納付していれば、特に問題が生じることはありませんでした。相続登記は、誰もが手続きが大変だという認識を持っています。そこで「面倒だし、お金もかけたくない」という理由で、登記をしないことが多かったのです。法改正により相続登記が義務化されても、費用や手間がかかることは変わりありませんし相続登記が浸透していくかはわからない状態です。また、過料を科すとなった場合でも、徴収対象者があまりに多いと「本当に過料を科していいのか」という問題も出てきます。

今回義務化される相続登記は、関係者が多いほど煩雑になります。戦後の民法では相続人全員の話し合いが原則であり、相続人の関係が円満であれば問題ありませんが、遺産分割でもめたりするケースでは、その土地が放置されたままになっていることも少なくありません。

重要なのは、本来の目的である相続登記を増やし、所有者不明の土地を少なくすることです。そこで自治体でも、相続登記時の登録免許税の軽減措置や手続きの簡易化など、負担軽減に努めています。登録免許税の軽減措置に関しては、市街化調整区域における評価額が10万円以下だったものを100万円以下にするなど、対象者がかなり増えると考えられます。また、二次相続が発生している場合も減税の対象となります。

相続登記をしなかったらどうなる?

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相続登記はやらない場合のデメリットが非常に大きいです。将来的にその土地を売却したり処分をしたりするときに登記は必ず必要になります。この法改正を機会に相続登記をしておく方がよいでしょう。

また、相続登記をしなければ、権利が複雑になることも予想されます。登記をしないうちに当事者の一人が亡くなると、相続人が増えることになります。これが何代も続いていくと、当事者が鼠算的に増えて複雑化していきます。当事者が増えれば、お互いの連絡が取れなくなったりするケースも考えられますし、当事者が高齢者で本人の判断能力がなくなってしまった場合、後見手続きを取らないといけないこともありえます。早めに相続登記をしておけば、こうした心配もなく、簡略化された手続きのみで済ませられるのです。

特に考えて欲しいのが「空き家」の対応です。倒壊などの危険性から「特定空き家」に該当することになれば、税制上の減税が受けられなくなります。今回の法改正には、この「特定空き家の税制」も盛り込まれています。今後は、更地と同等の税金を支払わなければならなくなりますので注意が必要です。

所有者の分からない空き家は年々増えてきており、家屋の解体工事の費用を市町村が負担するという事案も多くなってきています。そういったことが起こらないようにするためにも相続登記はとても重要なのです。

相続登記は早めに対応が肝要、その手順は?

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物件の調査に関しては、まず亡くなった方の固定資産税の明細を見れば、本人が所有していた物件が分かります。ただ、なかには税金のかかっていない土地(山林や公私道など)もありますので注意が必要です。相続人調査に関しては、亡くなった方の戸籍を取り寄せます。その戸籍の中から相続人にあたる人が誰なのか、その人は生存しているのかを調べます。遺産となる相続の内容と相続人が確定したら、話し合いで遺産の分配を決めます。そして、話しがまとまったら遺産分割協議書にまとめ、それに基づいて実際に不動産を取得する人から登記を申請します。

物件に関してはあらかじめわかっている場合が多く、時間がかかるのは相続人調査の方だと思います。亡くなった方の本籍地が変わっていれば、本籍地の戸籍をその都度取り寄せなければなりませんし、結婚・離婚をしている方の場合、前妻の子供がいるかなども調べなければなりません。戸籍の調査は平日しか対応していない自治体も多く、どうしても時間がかかりますので早めに調査を始めてください。

相続登記は、当事者が増えれば増えるほど、相続人調査に時間と手間がかかります。そうならないためにも、相続登記は早めに対応するのが肝要です。専門家にお願いすれば費用はかかりますが、手間や時間を考えれば、司法書士などの専門家にお願いした方が良いでしょう。

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