特集
2018/02/07
興味があっても高級なイメージゆえに躊躇してしまいがちなバイオリン。でも基本的な音程の聞き取りさえできれば、誰でも練習次第で上手に弾けるようになるというのも事実。ただ、いざ楽器を購入しようと思っても、どんなものを選べばいいのか見当が付かないという方もきっと多いはずです。そこで今回は、初心者が知っておきたいバイオリンの基本知識から、気になる値段の違い、購入後の保管方法に至るまで、弦楽器バイヤーの杉田直樹さんに詳しく教えていただきました。
ヴァイオリン売買のコンサルタント
杉田 直樹
バイオリンを始めたいと思っても、そもそも自分が向いているのか、向いていないのかが気になるという方も多いでしょう。「自分は指の長さが短いから無理なのでは?」と考えていらっしゃる人もいるようですが、実はそんなことはありません。バイオリンは、根気よく訓練すれば必ずできるようになる楽器です。
バイオリンは、左手の指の訓練や、右手のボーイング(弓の操作)の鍛錬が必要ですが、いずれにしても耳で音程を取りながら弾く楽器です。例えば、歌を歌うと極端に音程が外れてしまうような人は、残念ながら不向きなのかもしれませんが(なぜなら、バイオリンは耳で歌を歌っているのと一緒だから)、基本的に音楽を聴いたり楽しんだりできる方なら大丈夫。ギターなどとは違ってフレットがありませんから、音程を聴きながら弾くことになり、その分の難易度が高いかもしれませんが、これも練習によってだんだんできるようになります。
これからバイオリンを始める初心者にとって、最初の悩みどころは「楽器選び」。どんな楽器があるのか理解しなければ、自分に合ったものを選ぶのは難しいでしょう。
同じバイオリンにも、手作りのものと、量産されたものとがあります。手作りのものは、材料選びから全ての製作工程を一人の製作者が手掛けます。一方、量産楽器の場合には、必要に応じて機械を使ったり、分業作業により製作されます。バイオリンは、様々なパーツを組み合わせ、接着材に至るまですべて自然素材で作られます。裏板、横板、渦巻には楓材を、表板にはスプルース材を使います。
値段の違いは、製作工程や作家が違うから。とりわけイタリアの作家により作られたものは古今、芸術品のように扱われます。イタリアの歴史的作家であるストラディバリが手掛けた名器は、12億円の値段が付いたものも。一方、大量生産されるものは、古いものでも価値はあまり上がりません。バイオリンの価値は、材料・作る工程の差・誰の作か・どこの地域のものか・作りがキレイかなどで判断されます。名人によって丁寧に作られているものは音響まで考えられており、値段と音は比例しているともいえます。
バイオリンを選ぶ時の大切なポイントが寸法です。もともと様々な比率を含めて寸法はきちんと決まっているのですが、中には製作過程で狂っているものもあるからです。寸法が狂っていると、弾くときに指と指の幅が違ってきてしまいます。初心者の方ですと、どうしても安価な楽器を選ぶ傾向にあると思いますが、それでも寸法が間違った粗悪品だけは買わないように気を付けましょう。
また、お子さんがバイオリンを始める時には、子ども向けのサイズの楽器を選びます。体の大きさに合わせたサイズが揃っていますので、体の成長に合わせて徐々に大きなサイズへと買い換えていくようにします。
あとは好きな音を選ぶようにすることも大事です。ポイントは健全な音かどうか。板が標準よりも薄く作られているバイオリンの場合、弾いた時に遠くまで音が伸びないものなどもあります。こうした健全でない音が出るものは選ばないようにします。また、古いバイオリンを選ぶ時には、きちんと修復修理がされているのかどうかも確認するようにしましょう。
バイオリンそのもの、また音の質を長持ちさせるためには、購入後に正しい方法で保管することがとても大事です。そもそも日本は、バイオリンにとって最適な気候とは言えません。夏は高温多湿で、冬は乾燥するのが日本の特徴ですが、ヨーロッパは、夏は湿気が少なく冬の湿度も安定。つまり日本と全く逆になるのです。そのため、バイオリンを保管するときには、温度・湿度に細心の注意を払う必要があります。
夏には涼しい部屋で保管するようにしてください。できれば24℃以下、湿度は45~60%で保管するのがベストです。くれぐれも注意したいのが、車内に置きっ放しにすること。夏にこれをしてしまうと、バイオリンの板が剥がれたり、ニスが溶けてしまうケースも多々ありますので絶対に避けたいところです。
また、バイオリンの駒は、弦の張力によって立っているだけで、本体にくっついているわけではありません。駒は、弦との摩擦によって徐々にずれや変形がおきますので、半年に一回を目安に点検するようにしましょう。内部の魂柱も時間とともにズレが生じます。その他様々な部分が使用によって変化していきますので専門家による定期点検が必要です。