特集
2019/02/26
今年10月1日から消費税率が8%から10%へと引き上げられる予定になっています。現在、消費税は8%の単一税率ですが、10月1日以降は、8%と10%の複数税率となり、飲食料品(酒類・外食などを除く)と新聞(定期購読によるものに限る)は、8%の軽減税率が適用されることになります。そこで今回は、税理士の中野美代子先生に、そもそも軽減税率とは何なのか、私たち消費者にはどんな影響が出るのかなどについてお聞きしました。
(文中のイラストも中野さんが描いてます)
優しい女性税理士
中野 美代子
4コマ漫画『軽減税率』 作:中野美代子さん
https://oshiete.chunichi.co.jp/tokai/pro/340/column/1413/
今回の消費税増税に伴い、軽減税率が導入される理由は「低所得者の負担を少なくするため」だと言われています。所得税を見てみると、所得の高い人は税率が高くなり、所得の低い人は低い税率になっています。でも、消費税は、所得の高い・低いに関係なく同じ税率です。例えば、1万円のものを買った場合、税率8%なので、誰もが同じ800円を支払うことになります。そこで「日常生活に欠かせないもの」である飲食料品などについては、低い税率を適用し、低所得者の負担を少なくしましょうというのが軽減税率を導入する狙いです。
軽減税率の対象は、「日常生活に欠かせないもの」です。具体的には、お酒と外食以外の飲食料品、そして定期購読の新聞になります。ただ、その線引きはかなりあいまいで、考えれば考えるほど訳が分からなくなりそうです。例えば、酒屋さんでみりんを買うとします。本みりんを買うと10%ですが、みりん風調味料を買えば8%です。また、薬局で医薬部外品のリポビタンDを買うと10%ですが、清涼飲料水のオロナミンCは8%です。
持ち帰りができる珈琲屋さんで、コーヒーチケットを買ったとします。これはどちらになるでしょうか? そのチケットで持ち帰り用のコーヒーを買う予定であれば8%、珈琲屋さんの店内で座って飲む予定なら10%ということになります。
ピザやお寿司の宅配はどうなるかというと、玄関先で受け取るので8%になります。ただし、料理を部屋まで運んでもらい、配膳までしてもらった場合には10%になるそうです。
また、ハンバーガーショップで店員さんに「お持ち帰りですか?」と聞かれ、「持って帰ります」と告げて袋に入れて持ち帰るなら8%。「店内で食べます」と言って店内で食べれば10%です。でも、袋に入れてもらったハンバーガーを持ち帰らず、ショップ内で開けて食べたとしたらどうなるのか。店員は、店内で食べるか、持ち帰るかを聞き、客が「持ち帰る」といえば、8%でレジを打つしかなく、正直に「店内で食べます」というと10%になるわけです。親が子どもに「本当は店内で食べるけど、店内で食べるって言うと高くなるから、持ち帰るっていうのよ」なんて、ウソをつくように勧める世の中になってしまいそうで怖い気がします。
このように軽減税率は、非常に分かりにくい制度ですので、現場はかなり混乱するでしょう。同じ飲食料品でも誰が食べるのか(人が食べるのか、家畜が食べるのか)、どこで食べるのか(店内なのか店外なのか)など、その時の状況で税率が変わるからです。買う側からすると、少しでも安い方がいいわけで、ウソをついてでも8%にしようという人が出てくるのではないかという懸念もあります。
コンビニで食べ物を買う場合、店内のイートインコーナーで食べる場合には10%、買って外で食べれば8%です。ただ、お店のなかに「店内で食べる場合はお申し出ください」と張り紙を出しておき、「持ち帰ります」と言われて8%でレジ打ちをした後、お客さんがイートインコーナーで食べていたとしても、あとから2%分の消費税をもらうまではしなくても良いとされているようです。
「買う側の良心に任せる」ということらしいのですが、税制として「良心に任せる」というのはおかしいのではと思います。売る側と買う側で、争いが起きてしまうかもしれません。売る側は、煩雑になることで負担が増えますし、軽減税率に対応したレジに替えたり、申告時の経理負担も増えコストがかかります。
消費税増税の前に、定期券やチケットなどは購入しておくといいでしょう。9月30日までに8%で購入しておけば、10月1日以降でも利用できます。また、事業を営んでいる方は、「軽減税率対策補助金」の制度をチェックしてください。中小企業を対象に複数税率対応にかかる経費を一部補助してくれる制度で、対象のレジなどを購入した場合は、きちんと申請して補助金をもらいましょう。
消費税増税に伴い、小売店などで現金を使わずに支払いをした場合、利用額の最大5%分のポイント還元が実施される予定です。2019年10月から9ヵ月間行われるとのことなので、クレジットカードや電子マネーなどで支払いをするとお得に買い物ができます。
軽減税率が導入されると、事務負担が膨大に増えます。消費税を納付する事業者の事務負担、消費税申告書を作成する税理士の負担が増え、手間とコストがかかります。そして軽減税率が一旦導入されると、やめるにやめられず、その後は混乱がずっと続いていきます。
更には、いろんな業界が「うちも軽減税率にしてくれ」と言うようになり、結局、標準税率の10%を再度上げなければ、税収が見込めない状況に陥ってしまうのではないかと懸念しています。もしかしたら、消費税増税の再度延期もあるかもしれませんが、消費税を上げるのであれば単一税率にして、低所得者に対しては別の対策を考えなければいけないのではないかと思います。