特集
2017/09/28
最近では少子高齢化が急速に進んでいることから、「年金はもうじき破綻する」、「高齢者がこのまま増えていけば維持できない」といった話を耳にすることも多いと思います。ただ、これは本当なのでしょうか。それとも年金制度は変わらず維持されるのでしょうか? そんな気になる「年金制度のギモン」について、ファイナンシャルプランナーの服部清和さんにお聞きしました。
家計のホームドクター
服部 清和
「年金制度は近いうちに崩壊する」。そんな風に言われることも少なくないようですが、私は、年金制度は基本的に信じてもいいと思います。年金制度自体はきちんと制度設計がなされたものであり、今後も制度自体が崩壊してしまうことはないでしょう。
若い世代の方々には、「どうせもらえないなら、払わない方がいい」と年金保険料の支払いをしていない人も多いようですが、こうした人たちには受け取れる権利がなくなります。その分、パイが減るわけですから、将来的にも制度自体は維持できるのではないかと考えています。しかし、年金支給額が減らされたり、支給開始が遅くなったりする可能性は大いにあると言わざるをえません。
これまで年金が受給されるためには、最低25年間の加入期間が必要だったのですが、平成29年8月から、最低10年の加入期間で年金が支給されることになりました。これにより、年金を受け取る権利を得られる人が、大幅に増えることになったわけです。ただ、その一方で、今まで加入期間が足らずに無年金となり、生活保護を受給していたような人が、年金を受け取れることになり、その分、生活保護が減るといったことも起きています。そうなれば、むしろ生活が苦しくなることも十分に考えられるのです。
いずれにせよ、今後は、年金の支払い金額は上がり、もらえる金額は下がっていくというのが大きな流れになりそうです。
年金は、基本的に長生きすればするほど得をする仕組みになっています。ちなみに、今の高齢者は、「払う金額よりも支給される金額が多くて得だ」という人がいますが、当時と今とはそもそも貨幣価値が違いますから、単純に金額を比較することにはあまり意味がありません。
年金は65歳からもらえますが、基本的に平均寿命くらいが損益分岐点だと言われています。平均寿命よりも長生きできれば得する、というわけです。ちなみに年金には、年金を早くもらう分支給額が減額される「繰り上げ受給」、遅くもらう分支給額が増額される「繰り下げ受給」という制度があり、受給者が自由に選択できます。
あくまでも計算上の話ですが、年金の制度上65歳で亡くなるのが最も損です。一般的に「年金=老齢年金」をイメージしますが、保険料を支払っている期間でも障害状態になった場合は「障害年金」が、万が一の場合にはご遺族に対して「遺族年金」という保障が得られます。そして、65歳を超えると老齢年金が受給できるようになるからです。
老後の備えはどれくらい必要か? これは誰しも気になるところでしょう。ただ、どんな生活が送りたいかは人それぞれですので、一概に言うことはできません。ただ、平均余命から逆算すると、退職時に一世帯あたり3000~5000万円は必要だと言われています。
例えば、支給される年金に加えて、毎月10万が必要な場合、60歳の方が90歳まで生きるとすると、10万円×12カ月(1年間)×30年で、3600万円が必要ということになります。こうした計算を自分で行い、年金がどれだけ支給されるのか、貯金はどれくらい蓄えるべきなのかといった現状を、きちんと把握することが大事です。
老後の備えは、退職が近づいてから開始しても手遅れになってしまいます。できれば、社会人になった時点で、将来を見据えて真剣に貯蓄を考えるべきでしょう。少しでも若いうちに気づくことができれば、老後までの期間が長いため、余裕を持って準備を進めることができます。日本人は、お金について勉強することを敬遠しがちですが、本当なら学生のうちからお金について勉強をするべきだと思います。
お金に対する日本と外国との大きな違いは、お金をそのまま寝かせるのではなく、資産運用をしているかどうかにあります。自分で働いてお金を貯めながら、そのお金に働いてもらう。こうしてうまく資産運用ができれば、将来の備えを効率良く進めることができるはずです。
老後に不安を感じる方の中には、国の年金に加えて、個人年金保険への加入を考えている人も多いと思います。ただ、現状の金利であれば、それほど得になることはなく、加入するメリットは少ないでしょう。
個人年金保険のメリットは、節税効果が期待できる点です。個人年金保険料控除が受けられるため、年末調整や確定申告によって、所得税と住民税を控除することができます。そのため、単に銀行に預けているよりはましですが、それでも金利で増えるお金はごくわずかです。なお、個人年金商品には、将来受け取る支給額が最初から確定している定額型のほかに、投資信託や外貨などによる運用成績によって支給額が変動する変額型なども出てきています。
わずかしか増えない低金利の個人年金で積み立てをするくらいなら、その分、住宅ローンに充てて早く返済を終えてしまう方が得策な場合もあります。増やすのが難しければ、早く返済することを第一に考える。それが、老後の不安をなくす近道になると思います。